扇子作家 吉本忠則(Yoshimoto Tadanori)
1947年、広島市に生まれる。美術雑誌編集者を経て、アート・コーディネーターとして活躍するかたわら、扇子デザインに興味を抱き、2002年、『夏扇冬扇~和のオートクチュール』(東京・白金台)と題し初個展。05年、日本橋三越本店で『扇子・花扇画展』を開催(以後毎年、同本店で個展、今年で11年開催)。 10年、小説『花影』(ポプラ社刊)を発表、四季の移ろいを背景に男女が織りなす心模様を艶やかに描き出す。14年、パリ日本文化会館で扇子を展示。同年6月、日本橋三越本店で個展10周年展の開催に続き、『2014三越 秋の逸品会』(ホテルニューオータニ)に出品。10月、シンガポール・マンダリンギャラリーにて海外初個展。詩的感性に裏打ちされた創作活動は、美術から文学まで多岐に亘る。 現在、島根・足立美術館アドバイザー。
時空の旅 (作家のことば)
扇子を持つと、所作(しょさ)が正確になる。 洗練された機能美が使い手の指先を刺激し、 立ち居振る舞いに、 妙(たえ)なる抑揚を与えるからである。
キュートに閉じた身をときほぐすとき、 さざ波のような微風を送りこむとき、 そして安息の眠りにいざなうとき。
扇子を持つと、感性がしめやかになる。 馥郁(ふくいく)たる様式美に数多(あまた)の細胞が呼応し、 いにしえ人の息づかいを求めて、 時空の旅を重ねるからである。
古刀のような竹のフォルム、 しなやかで強靭な和紙の風合い、 そして想像力をかきたてる末広の誘惑。
忠 則